予定外にもかかわらず、さらに予定より10分ほど早く看護婦さんが迎えに来た。
『さー、行くよー・・あれ?お主人は?』
『あ、そろそろ帰ってきます。忘れ物取りに・・』
『後でいいのにー・・』
って・・・まさか、パパのいない間にはじまるの???
でも、そんな甘えたこと言う歳でもなかろーと、樹里に待っててね。と言って病室を出た。樹里は黙ってうなずいた。それでなくても不安で固まっているのに、あまりにも可哀想だった。普通にあるいて手術室に向かう。
これ・・夢じゃないよね。たしか、感動の出産ドキュメントの本番だよね・・・。先生はポケットに手を突っ込んでフラフラ歩きながら私に言った。
『オレ、明け方弱いねん。夜は割り合い強いねんけどな・・。眠たかったらかなんやろ。ボーっとしてしもて。せやから、起きとる間に切ってまお。まだ眠むたい時間ちゃうし。』
・・・・・『はあーーーー・・確かに・・・』
こんなはずじゃーなかった。こんなシーンじゃーないはず。もっと、・・・そう、ドラマであるみたいに、ガラガラベッドに点滴ぶらさげて、家族がベッドの横を歩きながら顔を覗き込んで『がんばれよ』『ママ、がんばってね・・』みたいな・・で、手術室の扉がしまって、上の〔手術室〕って書いてある赤いプレートがピコンと光るんじゃあなかった?
そうまでいかなくてもさあ・・と、ブツブツ考えていると幸い、入口でパパとバッタリ。先生から簡単に説明を受けて、パパは丁寧に先生に頭を下げて、じゃあ、宜しくお願いします。と、笑顔で去っていった。成り行き上、私も普通に『あとでねー。』と、手を振った。
こんなはずじゃー・・は、まだまだこれで終わりじゃなかった。
これから、帝王切開の手術をする可能性のある人のある意味参考になれば幸いです・・
まず、始まる前の手術室は仕事の後の女子更衣室状態。
この前のお茶はいくら飲んでも痩せないだの、婦長はデブだの、どうやらダイエットの話題みたいだった。手術台に寝転がっていた私も、参加しようと『玄米はいいらしいですよ』と割り込むと、『ありゃー、ウ○チは出るけど痩せへんよ』・・と、あっさり終わってしまった。
フンッとか思っていたら陣痛が強くなってきて、深呼吸して腰さすってたら、気分悪い?と聞かれたもんで、『いや・・陣痛が・・・・』これで少しは場の雰囲気も変わるんかいなと思ったけど、
『さすが早いやん。懐かしい痛みやろ』と、笑顔で言っていただいただけで、ダイエットの話はさらに盛り上がっていった。
さて、先生がオペ服に着替えて登場!
いよいよだ。リラックス・・リラックス・・。
麻酔の説明をうけて、ピンクの布をターバンのように頭に巻かれて私はスッポンポンになった。麻酔をうった。プチっと背中にピンセットかなにかで印をつけたのかと思ったらそれで終わりだった。
ぜーんぜん痛くない。楽勝!私のスッポンポンのほうがイタイ・・・。
『おおーー一発できまったぜ』と、先生も満足そうだった。
『廣瀬さん、痛なかったやろ?ゆうとくけど、めちゃめちゃうまくいってんで。いま。』
ほんと、自画自賛・・
とたんに、ビーリビリビリ・・足がしびれてきた。
余談だけど、麻酔には二種類あるらしく、事前にどちらがいいか、決めさせてくれた。
その選択というのは、
★ガーーーっと効いて、ガーーーっと覚めて、そのあと、まる一日死ぬほどいたいやつ。その代わり下半身だけなので産声がはっきり聞こえる。
もしくは、★ジワジワーーーっと効いて、ジワジワーーーっと覚めるから、後は比較的痛みはゆるいけど、手術中から痛いやつ。産声は遠い意識の中・・・・・・・
わかりにくい説明だけど、充分伝わってきた。
エーーッ。究極の選択??私は散々どっちがいいのか、聞いたけど、好きな方選んで。といわれる。
私の性格にはどっちがいいか決めろって。ちなみに、足して2で割ったようなちょうど良い方法はないらしい。
迷ったすえ、ガーーーっと効く方にした。それは、産声をはずせなかったこと。
それと、どの道いつかは痛い。
ネックは、後者の・・比較的後の痛みはゆるい・・・ってところ。どちらかしか体験しないのに比較できない。
信用できない。何を基準に比較的とか言うのさ。死ぬほど痛いのと、ゆるい痛みの差がわからない。
恐怖心からか、私はずいぶん卑屈になっているたのかもしれない。
言葉のとおり、ガーーーっと効いてきた。足を持ち上げられたのも、確かに見ると私の足なのに、何も感じない。触れる感覚も全くない劇的に不思議な感覚。そして、両足を分娩台にかけられて、片手に点滴。もう片方には血圧計を巻かれた。
状態をまとめてみると、私は・・・
スッポンポンで、頭にピンクのターバンを巻いている。
両手両足を広げて、仰向けになっている。しかも、点滴に血圧計にしばられて・・・
まわりでは、先生はじめ、スタッフの人が忙しそうに動き回っている。こんな姿・・・
ああーーーー泣きたい。
しかも、オシモの毛はロナウドの頭のように剃りあげられているのよ!!『実験台のカエルみたい・・』というと『まあ、そんなとこかね。』と、先生。
きっと、ドラマのように家族に見送られていたとしても、私はきっと、この時点でおわってる・・・
ようやく、上からいろいろカバーがかけられて落ち着いた。
息が苦しくなってきた。麻酔の影響で血圧が急激に下がるかららしい。
断続的に血圧が
読み上げられる。
『廣瀬さん、わかる?大丈夫よ気分悪くなったら我慢しちゃだめよ。吐いてもいいからね』マジ・・苦しい・・。目がうつろにしか開けない。
『広瀬さーん、これ、痛い?』と聞かれ意味がわからず、『は??』と言うと
『よっしゃ、OK,はじめよう。』どうやら、麻酔が完全にきいたらしい。
ようやく部屋中に緊張感が張り詰めた。先生の第一声は『メス』じゃなかった。私って、やっぱりドラマチック意識しすぎ。聞いたことのない言葉だった。
いずれにしろ、なんだか器具の名前。お腹でジョキッジョキッってはさみのような感覚。そのうち、何かを感じる余裕がなくなっていった。
意識が遠くなって・・・
『さあ、赤ちゃんもう出るからね。がんばってよ!』
の声で我にかえった。二、三回身体が大きくゆすられて、オエーーーッって思ったとき。
『フギャーーーーーーーッ』と産声が聞こえた。
おめでとうございまーす。
看護婦さんが声をかけてくれたけど、うなずくことしかできなかった。
『ちっこい女の子やでー』と先生。すぐに見せてくれた。ホント、小さい!でも・・
可愛いーーーーー?
私は残りの体力を全部ふりしぼって『ひえーーーーかわいいーーー』と、叫んだ。
『きれいにしてまた見せにくるわね。』といって、沐浴をさせて.もらいに出て行った。
私は、パパや樹里は赤ちゃんと対面できるのか気になった。早くふたりに会いたい・・。
私の体は、いろいろと後の処理をしてもらっていた。
その間、感動で放心状態の私に、先生がいろいろ話をしてくれた。すごくスムーズな手術だったこと。子宮の中がすごくきれいだったこと。おまけに、赤ちゃんが出たとき、子宮に押されて寄っていた腸がモコモコと勢いよく戻ってきたこと。私の肉厚がだいたい内臓から皮まで1.5センチぐらいあること・・・・。
先生にそれは大切なことなのか、いいことなのか聞いてみると、別に・・・。とのこと。真剣に聞いて損した。
でも、考えてみると、私は心の中を全部さらけ出せたパパを好きになって、結婚したけど、先生には心どころか、裸どころか、内臓までさらけだした。後にも先にももう、パパでさえも見ることはないだろうに・・。だからって、どうしようもない!!
っていうか、こんなこと考えてる私がどうしようもないのかもしれないけど。
目を開けると、パパが立っていた。何を話したのか覚えてないけど、ホッとした。
内臓・・見せてあげたかったな。・・・はい、うそです。
部屋に帰るのはさすがに歩いてではなかった。運ばれる途中新生児室の前を通ると、
父と母がガラスに張り付いて赤ちゃんを見ていた。遠慮がちに私を見ている樹里に『おめでとう、おねえちゃん』というと、うれしそうに笑ってくれた。
その日は、もうあまり、しゃべらないように。といわれ寂しいけどパパと樹里は帰ることに。その入れ違いに赤ちゃんを部屋に看護婦さんが連れてきてくれた。
みんな帰ったというと、なんと、猛ダッシュで連れ戻しに走ってくれた。なんていい人なんだろう。幸い駐車場でつかまって、しばし部屋でビデオ撮影タイム。
幸せなひととき。これからはじまる地獄の痛みなんて想像もできない・・・
こうして、2003年12月15日 花奏ちゃん誕生。
ママへ
ママがんばってね。
おなかきるの。
わたしもおおえんしているよ。
もちろんぱぱもおおえんしてるとおもいます。
ハナちゃんもおおえんしてるよ。
うまれたらみんなでおいわいしようね。
もちろんママパパジュリハナちゃんでね。
みんなもよぶよ。
たのしみにまっててね。
じゅりより 『手術のまえ、病室で、こっそりくれた手紙』
ありがとう。じゅりちゃん。ママ、この手紙のおかげで最後まで頑張れたんだよ。

